暖簾(のれん)とは、古くは禅寺で冬季のすきま風を防ぐのに用いたもの。暖簾は夏のイメージですが、漢字では「暖かいすだれ」と書くので不思議に思っていたのですが、冬に使っていたものだったんですね。「暖簾に腕押し」なんていうことわざもありますが、「暖簾を腕で押した時のように、力を入れても手ごたえがなく、張合いのないこと」。あれ?なんだか心当たりが。。。これはイケる!と張り切って作品を何個も作っても、ほとんど反応がないみたいなやつに似ています。(笑)
さて少し前になりますが、新規オープンするホテルにかける内暖簾のオーダーをいただき、しばらくの間、他のことはそっちのけで「暖簾」というものと向き合っていました。いつも思うのですが、新しいものに取り組む時は、想像以上に時間がかかります。作業を進めていくとさまざまな疑問が湧き、小さな壁がいちいち立ちはだかります。
暖簾はシンプルな作りなのですが、2枚の長い布をムラなく同じ色合いに染めるのが難しい。2枚の暖簾の長さをぴったり揃えるのも難しい。そして、繊細な麻生地をミシンで縫うのも難しい。生地によっては手縫いで仕上げた方が美しく見えることが分かったり、2枚の暖簾をつなぎ合わせるかがり縫いという縫い方があったり、さまざまな発見があり勉強にもなりました。
暖簾のかがり縫い。
このブログでも、何度か生地探しのことを書いていますが、暖簾の生地探しも長く険しい道のりでした。コロナ禍になってから初めての東京への仕入れ。時間の許す限り、生地屋さんと染色店を何軒か回りました。染色店には、小幅の生地が豊富に揃っています。暖簾は既製品を染めるより、小幅の生地を染めて仕立てる方が雰囲気が良いなと思うのですが、かける場所にぴったり合うサイズのものが全然見つかりませんでした。
こういう理由で小幅の布を探しているということを店主に話したら、私の焦り具合が伝わったのか、店主が大事に切り売りしていた小幅の生地を出してきてくれました。見せていただいた生地は、今後入手困難なものなのだそう。というのも、現在国内で小幅の生地を織っているところが、高齢化や後継者問題、採算が合わない等の理由でどんどん減っているそうです。以前にも、別の染色店でも同じようなお話を伺いました。今までは普通に買えていたものが、これからは買えなくなる、そういう時代になってきたなと思いました。無理を言って、その生地を少し譲っていただきました。染めに失敗したら後がないという生地なんですけど、、、ね。(苦笑)
どういう生地を選べば、どういう雰囲気になるのかということが分からなかったこともあり、小幅の生地以外にも、インドの手仕事布だったり、フランスの麻生地だったり、とにかくできる限りイメージに合いそうな生地をたくさん集めました。暖簾は長さが必要で、1種類につき3m以上買う必要があり、どんどんボリュームが増す布たちよ。買ったはいいけれど、これを洗って、糊を落として、アイロンかけて、仕立てて、染めてって、想像するとぞっとするような作業が待っていることも忘れるくらい、生地さがしに没頭した日々でした。
みなさんはどういう風に布を見つけてくるのかなぁ?と聞いてみたくなります。A地点からB地点に行くのに、とても遠回りしているように思うことがあります。寄り道しすぎなんじゃないかと思うくらい、ゴールはすぐそこなのになかなかゴールできない感じ。ゴールした途端、なんだこんなことだったんだ!こんなに悩む必要があったのかな?というふうに、自分の不器用さに冷笑したくなることもしばしば。そんな日々を送っております〜。
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